「いい家」というとき、メーカー、工務店、設計事務所等のプロの多くが、自分達の売りでしか語りません。でも、家に対する評価はそんな一部の項目だけで決まるものではありません。沢山の評価項目があり、その評価項目は両立できず相反するものもあります。そして、評価する人によって評価項目に対する重要度が違っています。
わたしたちが手掛ける家で最も重視するのは、「長寿命」「高い耐震性」「環境負荷」で、これらを非常に高いレベルで満たすのが「伝統構法」による家づくりなのです。そして、これを可能にするのが「生粋の大工」による手仕事なのです。これらを最重視するためには、相反する「コスト」「断熱・気密性」「工期」をある程度犠牲にする必要がありますので、わたしたちは1軒1軒の家づくりにおいて最適解を導きだすために「対話」を重視します。
1 長寿命
長年さまざまな議論がされてきておりますが、なによりもまず水分(水と水蒸気)の動きを見極めること、「天然の素材」「自然の材料」をできるだけ変質させることなく用いること、世代が交代しても家が受け継がれるための「恒久性のある使い勝手」を考慮することを重視します。ほかにも材料の選定、材料同士の相性、木配りを尽くし適材適所をこころがけること、等々様々なことをまず家の寿命に対する影響で考えます。
2 高い耐震性
一番大切にすることは間取りを決める際に架構(木材の組み方)を意識し、耐力部材だけではなく家全体で部材にかかる力をバランスよく分散させること(「総持ち」)です。木材等のサイズ、仕口・継手(木材のジョイント)の方法、位置や精度も、施工の容易さ・スピードよりも施工の丁寧さ・強さを優先します。構造は金物に頼らず木組みで成立させ、金物の使用も最低限にとどめます。
3 低い環境負荷
現在の日本では、商品・サービスの利用時の省エネ・低炭素(低二酸化炭素排出)ばかりを取り上げて「省エネ」「エコ(エコノミー、エコロジー)」をうたう風潮が闊歩していますが、大事なことは利用時だけではなく、生産時から廃棄時までも含めて評価すべきだと考えています。残念ながら、住宅関連に限らず工業製品は製造時・廃棄時に多量のエネルギーを必要とし、炭素消費(二酸化炭素排出)に直結しています。また、建設リサイクル法、や廃棄物処理法(廃掃法)により、不動産処分時に所有者は住宅だけでなく基礎コンクリートや地中の地盤改良材に至るまで分別回収する義務が生じており、住宅の解体費用は法整備以前よりすでに倍以上に跳ね上がっております。いわゆる「環境にやさしい」「地球にやさしい」材料を多用することが、サスティナブル((地球環境にとって)持続可能)な家になると考えています。
4 伝統構法
上記1~3を高いレベルで両立させて実現できるのが、伝統構法となります。架構形式は敷地条件、周辺環境、間取り等ケースバイケースで検討を行いますが、基本的には土壁工法による折置き組みの切妻屋根(和小屋組み)とし、条件があえば足元をフリーにして伝統構法の神髄ともいえる足固め工法、石場建て工法等を採用いたします。
5 生粋の大工
大工といっても現代は「足場大工」「型枠大工」「在来大工」「ツーバイ大工」等に専門化が進みましたが、わたしたちが委ねるのは鑿(ノミ)や鉋(カンナ)を常用し木配りができるいわゆる「大工」です。残念ながら、プレファブ化が進んだ現代では腕を振るう場どころか腕を習得する場もほとんどなくなっている状況ですが、ごく少数ですがそのような腕を習得している若い大工もおります。1本1本の材木をどこでどの向きに使い(木配り)、どのような形でどこで継いでいくのか(墨付け)、加工の精度をどこまで追い込むか(刻み)といったことは、現在のほとんどの木造住宅で用いられているプレカット工法ではいずれも対応できません。
6 断熱・気密性
断熱性を高めるためには高価で性能の高い断熱材を用い気密性を高める必要がありますが、透湿シートを用いたとしても透湿性を大きく阻害することとなります。そのため現在の主流は、外部からの湿気を断熱材の外側または内側で逃がす「通気工法」と、気密性を高めやすい「内断熱工法」となっています。「外断熱工法」と「内断熱工法」の優劣はどっちもどっちです。おおざっぱに言えば、コストパフォーマンスのよい「内断熱」が主流ですが、気密性を高めやすい「外断熱」や、両方を組み合わせたハイブリット型の工法も増えてきています。
土壁工法は吸放湿性能が圧倒的ですが、断熱材との相性はよくなく、寒冷地では通気層を挟んで外断熱とすることもありますが、多くの場合では夏冬の太陽光や風の流れと上手につきあうように屋根の庇や開口部(窓)の位置を設計し、断熱材は、外気と隣り合う床と天井のみ(または床のみ)とすることが一般的です。そのため、高断熱・高気密住宅のような高い断熱性能を得ることはできません。昔の家は寒いというイメージが浸透していますが、その原因は断熱材不使用と断熱・気密性の低い窓、建物全体に無数に存在していた隙間にあります。現代の伝統構法は各地の諸先輩方のノウハウ蓄積もあり、世間のイメージほどは寒くありません。
7 工期
現在の木造住宅は、コスト削減を追究し現場の手間を減らした結果、工法にもよりますが2~4ヵ月で工事が完了するようになりました。伝統構法は手造りですので、同じ大きさでも人手が数倍必要となります。また、乾式工法でない(湿式工法である)土壁工法は、下塗り、中塗り、上塗りと乾燥期間も必要となりますので、ざっくり1年ほどの期間が必要となります。しかしながら、木配りや墨付けといった大工にとって一番大切な作業は、分業には向かず棟梁と呼ばれる施工の最高責任者が自ら考えて手を動かす必要がありますし、精度をそろえて刻みを行うのも人手が多くなるほど難しくなりますので、棟上げ(上棟、建前ともいう)のとき以外は、数名で作業をすることになります。常時、数棟の現場を数名で工程に合わせて人繰りをしていくのが理想となりますし、棟上げの応援を求めるだけでなく、応援を求められることもあります(もちろん抱えている現場への影響を考慮して応援に行かないこともあります)。他の現場に応援に行くことも、他の現場から応援を受けることも、大工にとっては(設計や他の職種の職人にとっても)大切な情報交換の場であり、技術や知識を深める場でもありますので、ある程度はお客様の事情を斟酌しますが、工期短縮を最優先とすることは品質の低下につながり、寿命や耐震性にも影響しますので、工期に1年前後を要することのご理解を求めています。
8 コスト
現在の木造住宅市場では広告でうたっているのは別として、実態は坪単価40万円台~120万円台となり、低価格を売りにするところで坪40万円前後、バランス型で坪50~60万円、高級感を売りにするところや大手で坪60~万円となっているようです。しかしながら、高気密化や金物依存が進み、寿命は30~60年程度で、その間にも屋根や外壁、内壁の張替えが生じることも珍しくありません。とくにデザインを売りにした住宅ではそれが顕著です(機能美であればいいのですが・・・)。
わたしたちは、手間をかけ、時間をかけ、材料も耐久性のあるものをできるだけ用いますので、費用お目安は坪70万円~となります。坪数を抑えるような住み方や合板等の限定的な使用の提案もいたしますが、なにより本物の材料を使って手刻み専門の大工が丁寧に仕上げることで坪単価が高い以上の耐久性、将来的な維持費の安さに価値をお感じいただければ幸いです。
9 対話
住宅新築市場は、クレーム産業と呼ばれています。これもひとえに、コスト削減と工期削減を追求した結果、お客様との意思疎通不足が増えたからだと思われます。また、契約まではいいことばかり(中には虚偽の夢物語も・・・)を説明し、契約をせかし、契約締結後はほかの方に猛アタックをかけるようなところが非常に多いことに起因します。なんたって、住宅1軒契約すると多額の粗利が発生しますので・・・
わたしたちは、お客様ごとに生じる無数ともいえる「なぜ?」を、メリットとデメリットも添えて一つ一つ説明し、一緒になって考えていきます。家づくりにおいて決めることは沢山あり、それらは複雑に関連しあっていますので、それらを一つ一つ紐解いていきます。できあがる家、そこでの暮らし、さらには将来の家族の生活、さらには将来予測される費用について、いい点も悪い点もご納得がいくまで話し合いたいと思います。そのためには、至極当たり前のことですがわたしたちの費用なども包み隠さず説明し、適正な価格を提示します。